〜ゆびきり〜

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搬送先の病院で、慌ただしく処置と諸々の検査が済んで、
俺は病室へ移された。

「みかねえは?」
「お姉さんは家に連絡してくるって、お義兄さん…いやまだだな。
佑哉さんは俺達の荷物をペンションから持ってきてくれるそうだ。」
なにがお義兄さんだ。と思ったが、口にはしない

「疲れた?」
「疲れたなんてもんじゃない! どうなるかと…」
いろいろありすぎて、まだ心の整理ができていないのに
「涼」
「何だ?」
「ごめんな、ちゃんと責任は取るから」
「俺は男なんだから、妊娠とか赤んぼうとか馬鹿なことを言うなっ」
「ん、ついそんな気になっちゃって…でも俺の嫁に来てほしいのは
本気だよ。駄目?」
駄目もなにも、いままでの経緯と、この状況での答えはわかっているだろうに…
「航一…」
お前、ずるいよ。言おうとしたけど胸がつまって、涙が…
「痛いのか、それとも気持ち悪い? 看護士さん呼ぶ?」
ナースコールのボタンにのばした手をつかんで引き寄せる。
「航一が良い…」
それだけ言うのがやっとだった。手を離して、上掛けを顔まで引き上げた。

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「そう…そうかぁ♪」
見なくてもわかる。盛大ににやけてるだろう航一の顔
「よし、よし、よしっ!」
何のための気合だ? と思っていたら、ちょっと強引に向きを変えられた。
「涼、正式に挨拶に行くのは先だけど、約束なっ」
そっと唇が重なって離れた。
「ば、馬鹿なにしてる」
カーテンを引いているとはいえ、いつ誰が見るともわからないんだぞ、
まったくこの男は油断も隙もありゃしない。
「それと、これを涼に」
航一が自分の右手に嵌めていた指輪を抜いて、
俺の左手薬指に嵌めた。
「婚約記念な♪」
確か、ひとつは俺の部屋の机の引き出しに放り込んだままになっている筈…
航一の気に入りの片割れのことを思い出した。
「以前にうちに忘れていったやつがあるが、それはどうする?」
別に忘れていった訳じゃないんだけどな。と航一は言い、
「退院したら、そっちの指輪を涼が、俺の左手に嵌めてくれるかな?」
と笑った。

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終わり(弥弦様作品)


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